WEBコラム街とアートのより良い関係
Artist in Residence KOBE管理人 松下麻理
縁あって3年前から北野町でアーティスト・イン・レジデンス(以下AIR)を運営しています。
AIRはアーティストがその街に腰を据えてリサーチや制作を行うためのプログラムで、当然、寝泊りする場所が必要となります。
私達が運営するAIRには5つの部屋があり、世界各国から様々なジャンルのアーティストがやってきて、最長3ヶ月滞在します。
AIR運営のきっかけ
神戸フィルムオフィスで映像作品の誘致と支援の仕事をしていた私は、2021年の夏にある映画の撮影現場で森山未來さんに出会いました。
森山さんは「神戸には恒常的にアーティストを受け入れられる施設が必要」と語られ、その熱意に背中を押されるように、物件探しを始めました。
世界各国のAIRを渡り歩いていた森山さんによると、雪山に囲まれたノルウェー北部の施設、元刑務所をリノベーションしたパリの芸術施設など、そこにいるだけでその街の文化や風土が体の中に落ちてくるような施設が数多くあるとのこと。
それがアーティストにとっては、新たなインスピレーション得るうえで、とても重要だと森山さんは言われました。
私もアーティストが神戸の奥深さを体感したうえで作る作品は、神戸の人たちにとっても興味深いものになり、より良い交流が生まれるきっかけになると感じました。
築60年の外国人マンション
最初は北野の異人館の物件を探していたのですが、その時にはAIRができそうな邸宅を見つけることができず、あきらめかけていた時に2フロア空いている外国人マンションに出会い、借りることを決め、私は管理人として住み込むことになりました。
北野には今も昔も居住する外国人が多く、異人館だけではなく、外国人仕様のマンションも数多く存在します。
私達が借りたのは1963年に建てられたヴィンテージマンション。間取りや天井の高さが日本の住宅とは異なり、訪れた人からは「外国に来たみたい」と言われることもあります。
一方で日本らしい素材や意匠が取り入れられた部分もあり、まさに北野らしいレジデンスです。
オープン前には古い壁紙を剥がして漆喰を塗ったり、閉店するお店から家具や照明器具をもらい受けたりしながらメンバーみんなで準備を進め、2022年7月に初めての滞在アーティストを迎え入れました。
オープンから4年目となり、これまでに16か国から108組のアーティストを迎え入れています(2025年9月現在)。
海外から来たアーティストに神戸の印象を聞くと、異口同音に「リラックスできる街だ」と言われます。
都会でありながら自然が豊かだということも大きな要因のようですが、「外国人である自分たちがいても、疎外されることもなく、構われすぎることもなく、ホームタウンのような感覚で過ごせる」と言う人が多いのです。
神戸では開港以来、日本人が多くの外国人と混ざり合って過ごしてきた歴史があるのでそれが普通だと思われますが、「東京や大阪や京都と全然違う」と彼らは言います。
そのような環境の中、アーティストたちは伸び伸びと街を歩き、それぞれが感じる神戸を表現しています。
街でアートが生まれるとき
私達のレジデンスは山に近く、朝、北側の窓を開けると、山の匂いの風が部屋の中に入ってきます。
南側の窓からは北野のレトロな街並み、その向こうには現代的な三宮の街、そしてビルの谷間から海を見ることもできます。
まさに神戸の街の風土が一目で分かるような風景を昔住んでいた外国人も眺めていたと感じる時、ここにAIRを構えたことの意味を思い出します。
街は長い歴史の中で形づくられ、人々の営みによって成長します。神戸の人も気づかないような記憶のかけらにアーティストが光を当てる時、私達の中にも街への新しい見方が生まれるかもしれません。
そんな小さな奇跡を多くの神戸の人が目撃できるよう、これからもたくさんのアーティストを迎え入れたいと思っています。

Artist in Residence KOBE(AiRK)管理人
神戸市内の3つのホテル、神戸市広報専門官・広報官、神戸フィルムオフィスなどを経て神戸の魅力発信を行い、2025年4月からはAiRKの運営に専念し、国内外のアーティストの神戸での滞在や作品制作のサポートを行っている。
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