WEBコラム古民家活用のすすめ
有限会社才本建築事務所 代表取締役 才本 謙二
丹波篠山市で設計事務所を営む才本謙二と申します。古民家を活用したホテルやレストランの設計をメインに地域の活性化を図り
まちづくりのお手伝いをしています。300を超える古民家再生の経験から感じたこと、お伝えしたいことを以下に記したいと思います。
空き家古民家
実は私もそうですが、相次いで両親が亡くなって実家が空き家となってしまいました。相続放棄して弟に移譲したのですが、いまだ活用できていません。弟の意向もあり口出しできず、皆さまに偉そうなお話しはできませんがご容赦ください。たぶん皆さまも色々な事情で活用できていないのではないかと推測します。例えば、
・相続したが住んだこともなく愛着もない
・家財が多く片付けられない、片付けないときっと売りも貸しも出来ないだろう
・仏壇があり年数回法事で集まるので、しばらくこの状態で使い続けたい
・台風で瓦が飛ばないか心配、草刈りや害獣の侵入・雨漏り・シロアリなどで傷んできて
いるといった維持管理に困っている方、また結構傷んでいるが修理できるのか、費用がいくら掛かるか分からない、そもそもどうしていいか分からない、活用か解体か費用も掛けたくないし悩みの種だとおっしゃる方も多いのではないかと思います。
古民家に憑りつかれて四半世紀
地元篠山で開催された景観・まちなみに関するセミナーの後、まち歩きをしていて見つけた1棟の売り家(古民家)を「残したい」と思って25年が経ちました。仲間5人で残す仕組みを考え、市民を巻き込みながら事業はスタートしました。経済論理で大切な古民家が失われていくことに居た堪れない気持ちが行動に移しました。
当時「古民家」はお荷物で価値は見出されず厄介ものでした。誰もが改修し活用できるなんて想像もしていない時代でしたが、我々は地域材で地域の手により用の美に仕立てられた町屋は資源であると捉え買取りました。創建時から時代に即し改変が加えられ、また雨漏れや腐朽により一部姿を変えていましたが往時の面影を残し魅力一杯の建物を、一番輝いていた時代に戻すやり方で修理し磨き上げることを基本としました。
ここで、私が考える古民家の魅力とは何か箇条書きにしたいと思います。
・家族のまた地域のアイデンティティである
・家が後世に残ることは稀であること 災害や隆盛・衰退、用途変更により取り壊される
・風雨に耐え忍び、長い歴史と共に受け継がれた営みや文化が宿っている
・家を失って初めて、人々を慈しみ包含してくれていたことを感じる
・家に対する思いは人それぞれでしょうが、年代を超えて集い過去から未来へ様々な
ことが語り続けられていく場であって、家族にとって掛け替えのないもの
・時にして他人に引き継がれる 引き継がれた人は歴史と時間、空間を手に入れる
・修理し手直しすれば、いつまでも使い続けられる
など書き出すとキリがありません。
話を戻します。売却するのなら新築の半値を目標に、買い取った古民家をプロの指導のもと市民の皆さまと修理をスタート。時間は掛かりましたが思惑通り魅力的な部分の棄損もなく、しかも安価に修理ができることが分かりました。
また、購入者を募集したところ直ぐに3組の応募があり売れることも判明。古民家はその後、個性的な陶芸家の作品が並ぶギャラリーとして初の活用事例となり事業化することになりました。その後我々の活動の原点となる「集落丸山」や「篠山城下町ホテルNIPPONIA」の開業に至ったところで、国の知るところとなり菅官房長官(のちの総理)が視察、一気に国の事業となったのです。
その後古民家が投資対象になり、名もない普通の古民家から国の重要文化財まで幅広く活用され、負の遺産と言われた古民家が今や資源と称されるようになりました。
「篠山城下町ホテルNIPPONIA」(兵庫県丹波篠山市)
「集落丸山」(兵庫県丹波篠山市)
家のいく末
家は基本どんな状態でも改修・リノベーションは可能で残せます。当然コンディションによって費用は大きく変わりますが、予算に応じて改修方法も選択できます。解体は覆水盆に返らず、活用事例をご覧になって「残しておけば良かった」と後悔される方が多くいらっしゃいます。
もう一つ付け加えれば、放置しておくと資産価値が目減りして賃貸や売買、活用時に費用が嵩むことになりますので、日ごろの維持管理が大切です。その為にも使わなくなれば、早期にしかるべき専門家にご相談されることをお勧めします。最近は、古民家などの活用に手厚い支援制度があり、うまく利用するといいでしょう。
古民家の設えやそこで営まれた暮らしは今や非日常です、魅力たっぷりの自分の家が地域のお役に立ち、世代を超えて集える建物に生まれ変わった姿に触れると感動すら覚えます。レストランやcafé、ホテルなどの商業系だけでなく、文化施設や高齢者施設・児童福祉施設、アトリエやギャラリーなど様々な用途に転用されています。
家のいく末を是非ご家族と妄想されることをお勧めします。

内閣府歴史的資源を活用した観光まちづくり専門家会議委員、観光庁観光振興補助対象事業選定委員、兵庫県空き家改修アドバイザー、三田市文化財保護審議会委員
丹波篠山(兵庫県)を中心に活動。人・風土・文化を大切にしたいと考えている。
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